役員報酬の支払い開始
2026役員報酬の支払い開始ガイド
株式会社(KK)・合同会社(GK)の代表者が初めて役員報酬を支払う際に必要な手続きを網羅的に解説します。法人設立直後でも、既存法人の報酬開始でも対応。
概要:なぜ多くの届出が必要?
日本の法人が役員報酬(やくいんほうしゅう)の支払いを開始すると、4つの異なる法律分野にまたがる義務が同時に発生します:会社法(株主総会・社員総会の決議)、法人税法(損金算入の要件)、社会保険法(健康保険・厚生年金)、所得税法(源泉徴収義務)です。[2][26]
設立直後の届出(法人設立届出書、青色申告承認申請書など)の詳細はこちら
2つのシナリオ
シナリオ A:新設法人 — 設立時から報酬を支払う
税務届出と社会保険の加入を設立と同時に行います。報酬金額の決定期限は設立日から3か月以内。設立届出書と給与支払事務所等の開設届出書を一緒に提出するのが一般的です。
シナリオ B:既存法人 — 初めて報酬の支払いを開始する
株主総会(社員総会)の決議が必要です。3か月の期限は当期の事業年度開始日から起算します。すでに期限を過ぎている場合、翌事業年度の開始を待つか、損金不算入を承知で支払いを開始する必要があります。社会保険は最初の報酬支払日から5日以内に届出。
ステップ 1:会社法上の手続き(決議と議事録)
株式会社(KK):株主総会の決議
会社法第361条により、取締役の報酬は株主総会(かぶぬしそうかい)の決議で定める必要があります。一人会社でも同じ手続きが必要ですが、書面決議(みなし決議)で簡便に行えます。[1]
決議に記載すべき事項
- •取締役の氏名・役職
- •月額報酬額(げつがくほうしゅうがく)
- •支給開始日
- •毎月の支払日
議事録(ぎじろく)の作成と保管
会社法第318条により、議事録を作成し本店に10年間保管する義務があります。政府への提出義務はありませんが、税務調査で確認されます。一人会社の場合も、株主と取締役の両方の資格で署名します。[23]
書面決議の具体的な手順、議事録テンプレート、押印の要否について
ステップ 2:税務署への届出
以下の届出は管轄の税務署に提出します。新設法人の場合は設立届出書と同時に提出するのが効率的です。
ステップ 4:住民税の特別徴収
住民税(じゅうみんぜい)は取締役の居住する市区町村に納付する地方税です。給与を支払う事業者は「特別徴収義務者」として、毎月の給与から天引きして納付する義務があります。
初年度の取り扱い
報酬支払い開始の初年度は、前年の給与データが存在しないため、特別徴収は行われません。取締役は自分で「普通徴収」(ふつうちょうしゅう)として4回の分割払いで住民税を納付します。翌年1月31日までに「給与支払報告書」を市区町村に提出すると、翌年の6月から特別徴収が開始されます。
住民税のサイクル
住民税の特別徴収は6月〜翌5月のサイクルです。毎年1月31日に「給与支払報告書」を提出→5月に市区町村から「特別徴収税額決定通知書」が届く→6月から翌5月まで毎月の給与から天引き→翌月10日までに市区町村に納付。従業員10人未満の場合、半年ごとの特例納付も利用可能。[27]
ステップ 5:労働保険(役員のみの会社)
労働保険(ろうどうほけん)は「労災保険」と「雇用保険」の2つで構成されますが、いずれも労働者(ろうどうしゃ)が対象です。取締役は労働者ではないため、取締役のみの法人は労働保険の加入義務がありません。[16][17]
タイムライン:全届出の期限一覧
設立日(または報酬支払い開始日)を「Day 0」とした場合の期限一覧です。
| 期限 | 届出名 | 届出先 | 必須 |
|---|---|---|---|
| 5日 | 社保 新規適用届 + 被保険者資格取得届 | 年金事務所 | 必須 |
| 5日 | 健保 被扶養者届(扶養家族がいる場合) | 年金事務所 | 推奨 |
| 1か月 | 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 必須 |
| なるべく早く | 源泉所得税の納期の特例の承認申請書 | 税務署 | 推奨 |
| 2か月 | 法人設立届出書(新設法人のみ) | 税務署 + 地方税 | 必須 |
| 3か月 | 役員報酬額の確定(議事録) | 社内保管 | 必須 |
| 3か月 or 期末 | 青色申告の承認申請書(新設法人のみ) | 税務署 | 推奨 |
毎月の義務
年間の定期義務
| 時期 | 義務 | 届出先 |
|---|---|---|
| 1月31日 | 給与支払報告書(前年分)→ 特別徴収の根拠 | 市区町村 |
| 1月31日 | 法定調書合計表 + 源泉徴収票の交付 | 税務署 / 取締役 |
| 7月1〜10日 | 算定基礎届(社保の年次再計算) | 年金事務所 |
| 7月10日 | 源泉所得税の納付(1〜6月分・特例の場合) | 税務署 |
| 10〜12月 | 年末調整(取締役の年間所得税の精算) | 社内処理 |
| 1月20日 | 源泉所得税の納付(7〜12月分・特例の場合) | 税務署 |
自動化とツール
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| 業務 | 自動化レベル | 方法・ツール |
|---|---|---|
| 給与計算 | 完全自動 | freee HR |
| 源泉所得税の計算 | 完全自動 | freee HR |
| 社保料率の更新 | 完全自動 | freee HR |
| 年末調整 | 自動 | freee HR |
| 算定基礎届 | 半自動 | freee作成→年金事務所提出 |
| 社保料の納付 | 自動 | 口座振替 |
| 初回届出(税務署等) | 手動(1回のみ) | e-Tax / e-Gov |
| 議事録の作成 | テンプレート | GVA等のテンプレート |
関連用語集
このガイドに登場する主要な専門用語です。クリックすると詳細な解説を確認できます。
参考文献
- [1]会社法第361条(取締役の報酬等)(e-Gov)
- [2]国税庁 No.5211 役員に対する給与(法人税法第34条)(NTA)
- [3]国税庁 法人設立届出書(NTA)
- [4]国税庁 給与支払事務所等の開設届出書(NTA)
- [5]国税庁 青色申告の承認申請書(NTA)
- [6]国税庁 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(NTA)
- [7]国税庁 事前確定届出給与に関する届出書(NTA)
- [8]日本年金機構 健康保険・厚生年金保険 新規適用届(JPS)
- [9]日本年金機構 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届(JPS)
- [10]日本年金機構 健康保険 被扶養者(異動)届(JPS)
- [11]日本年金機構 算定基礎届(JPS)
- [12]日本年金機構 随時改定(月額変更届)(JPS)
- [13]協会けんぽ 標準報酬月額の決め方(Kyokai Kenpo)
- [14]国税庁 No.5100 新設法人の届出書類(NTA)
- [15]国税庁 令和7年分 源泉徴収税額表(NTA)
- [16]厚生労働省 労働保険の成立手続(MHLW)
- [17]厚生労働省 雇用保険制度 Q&A(MHLW)
- [18]freee 定期同額給与とは(freee)
- [19]freee 法人設立時は一人社長も社会保険加入が必須(freee)
- [20]GVA 役員報酬変更の株主総会議事録テンプレート(GVA TECH)
- [21]RSM Japan 設立時に必要な届出(RSM Japan)
- [22]マネーフォワード 法人化したときの役員報酬の決め方(MoneyForward)
- [23]会社法(e-Gov)
- [24]freee ひとり法人でも必要な労務をまとめてラクに(freee)
- [25]日本年金機構 適用事業所と被保険者(JPS)
- [26]法人税法第34条(役員給与の損金不算入)(e-Gov)
- [27]eLTax 地方税ポータルシステム(eLTax)
- [28]会社法第590条(業務の執行)(e-Gov)
ステップ 3:社会保険(健康保険・厚生年金)の加入
健康保険・厚生年金保険 新規適用届
期限: 5日以内 ・ 届出先: 年金事務所
会社自体を社会保険の適用事業所として登録する基盤の届出。登記簿謄本(90日以内発行)の添付が必要。[8]
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
期限: 5日以内 ・ 届出先: 年金事務所
各取締役を個人として社会保険に加入させる届出。標準報酬月額(ひょうじゅんほうしゅうげつがく)の決定に基づき保険料が算出されます。マイナンバーの記載が必要。[9][13]
健康保険 被扶養者(異動)届
期限: 5日以内 ・ 届出先: 年金事務所
扶養家族(配偶者・子供等)がいる場合のみ必要。追加保険料なしで扶養家族の健康保険をカバー。扶養認定の収入要件:年間130万円未満。[10]
保険料の目安(2025年度・東京・協会けんぽ)
例:月額報酬30万円の場合、社会保険料は個人約42,000円+会社約42,000円=月額約84,000円(年間約100万円)