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役員報酬の支払い開始

2026

役員報酬の支払い開始ガイド

株式会社(KK)・合同会社(GK)の代表者が初めて役員報酬を支払う際に必要な手続きを網羅的に解説します。法人設立直後でも、既存法人の報酬開始でも対応。

3か月報酬決定の期限
5日社保届出期限
~8件必要届出
3~4か所届出先

概要:なぜ多くの届出が必要?

日本の法人が役員報酬(やくいんほうしゅう)の支払いを開始すると、4つの異なる法律分野にまたがる義務が同時に発生します:会社法(株主総会・社員総会の決議)、法人税法(損金算入の要件)、社会保険法(健康保険・厚生年金)、所得税法(源泉徴収義務)です。[2][26]

最も重要なルール:定期同額給与(ていきどうがくきゅうよ)— 役員報酬は毎月同額で支払い、事業年度中に変更しないことが法人税法上の損金算入の条件です。事業年度開始後3か月以内に金額を確定させる必要があります。[18]
法人設立後の手続きガイドも参照 →

設立直後の届出(法人設立届出書、青色申告承認申請書など)の詳細はこちら

2つのシナリオ

シナリオ A:新設法人 — 設立時から報酬を支払う

税務届出と社会保険の加入を設立と同時に行います。報酬金額の決定期限は設立日から3か月以内。設立届出書と給与支払事務所等の開設届出書を一緒に提出するのが一般的です。

シナリオ B:既存法人 — 初めて報酬の支払いを開始する

株主総会(社員総会)の決議が必要です。3か月の期限は当期の事業年度開始日から起算します。すでに期限を過ぎている場合、翌事業年度の開始を待つか、損金不算入を承知で支払いを開始する必要があります。社会保険は最初の報酬支払日から5日以内に届出。

3か月ルールの例:4月1日設立(または事業年度開始)の法人は、6月30日までに報酬額を確定させる必要があります。1月〜12月決算の法人で初めて報酬を支払う場合は、3月31日が期限です。[2]

ステップ 1:会社法上の手続き(決議と議事録)

株式会社(KK):株主総会の決議

会社法第361条により、取締役の報酬は株主総会(かぶぬしそうかい)の決議で定める必要があります。一人会社でも同じ手続きが必要ですが、書面決議(みなし決議)で簡便に行えます。[1]

決議に記載すべき事項

  • 取締役の氏名・役職
  • 月額報酬額(げつがくほうしゅうがく)
  • 支給開始日
  • 毎月の支払日

議事録(ぎじろく)の作成と保管

会社法第318条により、議事録を作成し本店に10年間保管する義務があります。政府への提出義務はありませんが、税務調査で確認されます。一人会社の場合も、株主と取締役の両方の資格で署名します。[23]

定時株主総会の基礎知識(みなし決議の手順を含む)→

書面決議の具体的な手順、議事録テンプレート、押印の要否について

議事録のテンプレートはGVA法人登記のウェブサイトからダウンロードできます。[20]

ステップ 2:税務署への届出

以下の届出は管轄の税務署に提出します。新設法人の場合は設立届出書と同時に提出するのが効率的です。

給与支払事務所等の開設届出書

期限: 報酬支払開始から1か月以内 届出先: 税務署

会社が源泉徴収義務者(げんせんちょうしゅうぎむしゃ)になることを届け出る重要な書類です。報酬を支払う全ての法人に必須。[4]

源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

期限: 期限なし(早めに提出推奨) 届出先: 税務署

従業員10人未満の法人は源泉所得税の納付を年2回(7月10日・1月20日)にまとめられます。毎月の納付負担を大幅に軽減。給与支払事務所等の開設届出書と同時に提出するのが理想的。[6]

法人設立届出書

期限: 設立から2か月以内 届出先: 税務署 + 都道府県・市区町村

新設法人のみ。既に提出済みの場合は不要。国税(税務署)と地方税(都道府県・市区町村)の両方に提出が必要。[3][14]

青色申告の承認申請書

期限: 設立3か月以内 or 事業年度末(早い方) 届出先: 税務署

新設法人のみ。欠損金の繰越控除(最大10年間)など大きなメリットがあり、提出を強く推奨。[5]

事前確定届出給与に関する届出書

期限: 決議後1か月 or 期首4か月(早い方) 届出先: 税務署

役員賞与(やくいんしょうよ)を支払う場合のみ必要。通常の月額定期同額給与のみなら不要です。届出額と異なる金額を支払うと全額損金不算入になるため要注意。[7]

ステップ 3:社会保険(健康保険・厚生年金)の加入

社会保険の届出期限は事実発生から5日以内です。新設法人は設立日から、既存法人は報酬支払開始日から起算します。届出先は管轄の年金事務所(ねんきんじむしょ)です。[8][19]

健康保険・厚生年金保険 新規適用届

期限: 5日以内 届出先: 年金事務所

会社自体を社会保険の適用事業所として登録する基盤の届出。登記簿謄本(90日以内発行)の添付が必要。[8]

健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届

期限: 5日以内 届出先: 年金事務所

各取締役を個人として社会保険に加入させる届出。標準報酬月額(ひょうじゅんほうしゅうげつがく)の決定に基づき保険料が算出されます。マイナンバーの記載が必要。[9][13]

健康保険 被扶養者(異動)届

期限: 5日以内 届出先: 年金事務所

扶養家族(配偶者・子供等)がいる場合のみ必要。追加保険料なしで扶養家族の健康保険をカバー。扶養認定の収入要件:年間130万円未満。[10]

保険料の目安(2025年度・東京・協会けんぽ)

保険種別本人負担会社負担合計
健康保険~4.955%~4.955%~9.91%
厚生年金9.15%9.15%18.3%
介護保険(40〜64歳)~0.9%~0.9%~1.8%

例:月額報酬30万円の場合、社会保険料は個人約42,000円+会社約42,000円=月額約84,000円(年間約100万円)

報酬が0円の場合は社会保険に加入できません(保険料の算定基礎がないため)。この場合、国民健康保険と国民年金に個人で加入し続けます。[25]

ステップ 4:住民税の特別徴収

住民税(じゅうみんぜい)は取締役の居住する市区町村に納付する地方税です。給与を支払う事業者は「特別徴収義務者」として、毎月の給与から天引きして納付する義務があります。

初年度の取り扱い

報酬支払い開始の初年度は、前年の給与データが存在しないため、特別徴収は行われません。取締役は自分で「普通徴収」(ふつうちょうしゅう)として4回の分割払いで住民税を納付します。翌年1月31日までに「給与支払報告書」を市区町村に提出すると、翌年の6月から特別徴収が開始されます。

住民税のサイクル

住民税の特別徴収は6月〜翌5月のサイクルです。毎年1月31日に「給与支払報告書」を提出→5月に市区町村から「特別徴収税額決定通知書」が届く→6月から翌5月まで毎月の給与から天引き→翌月10日までに市区町村に納付。従業員10人未満の場合、半年ごとの特例納付も利用可能。[27]

ステップ 5:労働保険(役員のみの会社)

労働保険(ろうどうほけん)は「労災保険」と「雇用保険」の2つで構成されますが、いずれも労働者(ろうどうしゃ)が対象です。取締役は労働者ではないため、取締役のみの法人は労働保険の加入義務がありません。[16][17]

従業員を1人でも雇用した場合は、雇用日から10日以内に「保険関係成立届」(労働基準監督署)と「雇用保険適用事業所設置届」(ハローワーク)の届出が必要になります。[16]

タイムライン:全届出の期限一覧

設立日(または報酬支払い開始日)を「Day 0」とした場合の期限一覧です。

期限届出名届出先必須
5日社保 新規適用届 + 被保険者資格取得届年金事務所必須
5日健保 被扶養者届(扶養家族がいる場合)年金事務所推奨
1か月給与支払事務所等の開設届出書税務署必須
なるべく早く源泉所得税の納期の特例の承認申請書税務署推奨
2か月法人設立届出書(新設法人のみ)税務署 + 地方税必須
3か月役員報酬額の確定(議事録)社内保管必須
3か月 or 期末青色申告の承認申請書(新設法人のみ)税務署推奨

毎月の義務

給与計算

毎月の計算項目:総支給額→源泉所得税の天引き(源泉徴収税額表による)→社会保険料の天引き→住民税の天引き(2年目以降)→手取り額。freeeの人事労務(ひとり法人プラン)で無料自動化が可能。[15][24]

源泉所得税の納付

通常:翌月10日まで(毎月)。納期の特例あり:年2回(1月〜6月分は7月10日、7月〜12月分は翌年1月20日)。e-Taxでのオンライン納付が可能。[6]

社会保険料の納付

年金事務所から毎月届く「保険料納入通知書」に基づき、翌月末日までに納付。口座振替の設定を強く推奨。

年間の定期義務

算定基礎届は毎年7月1日〜10日に届出。4月・5月・6月の実際の報酬額を基に、9月からの標準報酬月額を再計算します。一人法人の場合も提出義務があります。[11]

自動化とツール

ひとり法人の給与計算・労務管理はfreeeの人事労務で大幅に効率化できます。freee会計のスタータープラン以上で無料利用可能。[24]

業務自動化レベル方法・ツール
給与計算完全自動freee HR
源泉所得税の計算完全自動freee HR
社保料率の更新完全自動freee HR
年末調整自動freee HR
算定基礎届半自動freee作成→年金事務所提出
社保料の納付自動口座振替
初回届出(税務署等)手動(1回のみ)e-Tax / e-Gov
議事録の作成テンプレートGVA等のテンプレート

関連用語集

このガイドに登場する主要な専門用語です。クリックすると詳細な解説を確認できます。

やくいん役員ほうしゅう報酬役員報酬会社の取締役等の役員に支払われる報酬。ていき定期どうがく同額きゅうよ給与定期同額給与毎月同額を支給する役員報酬の形式。損金算入の要件。じぜん事前かくてい確定とどけで届出きゅうよ給与事前確定届出給与事前に届出を行うことで損金算入が認められる役員賞与の仕組み。そんきん損金さんにゅう算入損金算入法人税の計算上、費用として認められること。かぶぬし株主そうかい総会株主総会株式会社の最高意思決定機関。しゃいん社員そうかい総会社員総会合同会社や社団法人の最高意思決定機関。ぎじ議事ろく議事録株主総会や取締役会等の議事を記録した文書。げんせん源泉ちょうしゅう徴収源泉徴収給与等の支払時に所得税を天引きする制度。ひょうじゅん標準ほうしゅう報酬げつがく月額標準報酬月額社会保険料の計算基準となる報酬月額の等級。50段階の区分がある。しゃかい社会ほけん保険社会保険健康保険と厚生年金保険を合わせた総称。とくべつ特別ちょうしゅう徴収特別徴収事業者が従業員の住民税を給与から天引きして市区町村に納付する制度。ねんまつ年末ちょうせい調整年末調整雇用主が年末に従業員の所得税を再計算し過不足を精算する手続き。

参考文献

  1. [1]会社法第361条(取締役の報酬等)(e-Gov)
  2. [2]国税庁 No.5211 役員に対する給与(法人税法第34条)(NTA)
  3. [3]国税庁 法人設立届出書(NTA)
  4. [4]国税庁 給与支払事務所等の開設届出書(NTA)
  5. [5]国税庁 青色申告の承認申請書(NTA)
  6. [6]国税庁 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(NTA)
  7. [7]国税庁 事前確定届出給与に関する届出書(NTA)
  8. [8]日本年金機構 健康保険・厚生年金保険 新規適用届(JPS)
  9. [9]日本年金機構 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届(JPS)
  10. [10]日本年金機構 健康保険 被扶養者(異動)届(JPS)
  11. [11]日本年金機構 算定基礎届(JPS)
  12. [12]日本年金機構 随時改定(月額変更届)(JPS)
  13. [13]協会けんぽ 標準報酬月額の決め方(Kyokai Kenpo)
  14. [14]国税庁 No.5100 新設法人の届出書類(NTA)
  15. [15]国税庁 令和7年分 源泉徴収税額表(NTA)
  16. [16]厚生労働省 労働保険の成立手続(MHLW)
  17. [17]厚生労働省 雇用保険制度 Q&A(MHLW)
  18. [18]freee 定期同額給与とは(freee)
  19. [19]freee 法人設立時は一人社長も社会保険加入が必須(freee)
  20. [20]GVA 役員報酬変更の株主総会議事録テンプレート(GVA TECH)
  21. [21]RSM Japan 設立時に必要な届出(RSM Japan)
  22. [22]マネーフォワード 法人化したときの役員報酬の決め方(MoneyForward)
  23. [23]会社法(e-Gov)
  24. [24]freee ひとり法人でも必要な労務をまとめてラクに(freee)
  25. [25]日本年金機構 適用事業所と被保険者(JPS)
  26. [26]法人税法第34条(役員給与の損金不算入)(e-Gov)
  27. [27]eLTax 地方税ポータルシステム(eLTax)
  28. [28]会社法第590条(業務の執行)(e-Gov)